イギリスの医療救急車事情アイキャッチ

海外を訪れると、様々なトラブルが発生します。長旅の疲れや気候の変化から体調を崩してしまったり、怪我をしてしまったりと予期せぬ事態を想定しなくておかなくてはなりません。

これは、トラベルライターを目指す皆さまにとっても例外ではないでしょう。今回は、福祉国家イギリスの医療・救急車事情についてレポートしていきます。

「ゆりかごから墓場まで」この言葉はまさにイギリスの福祉を象徴する言葉です。イギリスでは「国民保健サービス(通称、NHS)」という制度があり、原則として在住者には医療が無料*¹で提供されています。

これはイギリス国民だけでなく居住する外国人にも提供されるもので、実に70年以上に渡って脈々と受け継がれてきたサービスです。

近年イギリスでは、EU離脱や近隣諸国からの難民問題など多くの問題を抱えていますが、このNHSは世界的に見ても素晴らしいサービスであることは間違いないでしょう。

*1: 現在、処方薬、歯科治療、眼科治療など無料サービス適用外のものもあります。

ロンドンの救急車

1.国民保健サービスNHSとは

初めにもお話しした通り、一般的にイギリスの医療は無料となります。原則として6ヶ月以上イギリスに居住する人*²もNHS(National Health Service)の利用が可能となっています。

さらに救急車を利用する際には、これに加えてGP*³と呼ばれるいわゆる掛かり付け医への登録が必要となります。

*2: 2015年以降、労働ビザ、就学ビザ、家族ビザなどの特定のビザを保有する人は、ビザ取得時に健康保険付加料(IHS: Immigration Health Surcharge)を事前に納める必要があり、それにより医療費が無料になります。金額は、学生ビザまたはYouth Mobility Scheme(旧ワーキングホリデービザ)で年間£300(約4万1千円)。その他のビザで年間£400(約5万5千円)です。(2020年10月現在)

*3: GP (General Practice)といって一般開業医を指します。イギリスでは、患者の判断で直接大きな病院へ行くのではなく、初期診療をこのGPが行います。その上で必要と診断された場合には大きな病院で専門的な診断を受けることになります。

2.イギリスでの救急車利用方法

イギリスで救急車を利用するには、「999(トリプルナイン)」にダイヤルします。こちらの番号は総合的な緊急電話番号となっており、こちらから警察・消防・救急車を呼ぶことができます。

電話を掛けるとオペレーターに電話が繋がり、必要なサービスへ電話を繋いでもらいます。救急車を利用したい場合には、「アンビュランス プリーズ(Ambulance please)」と伝えましょう。オペレーターからは、まず初めに次の情報が求められます。

・どこから電話しているか(地名や郵便番号が分かればこちらも伝える)
・あなたの電話番号
・何が起きたのか

これらの情報を伝え、状況からオペレーターが必要と判断した場合には、救急車が出動します。電話は切らずにオペレーターの指示に従い、わかる範囲で的確に情報を伝えましょう。

・患者の年齢・性別・過去に病歴があるか
・患者は意識があるか、また呼吸があるか
・多量出血や胸部の痛みがあるか
・怪我の状況、何が起こったのか 

などの情報も追加で聞かれることがあります。オペレーターから指示があった場合には、救急車到着までに救急処置を求められることもあります。まずは通報者と患者の安全を確保し、冷静に対応することが大切です。

救急車の利用はNHSサービスに含まれていますので、原則として無料で利用できます。そのため、軽症者や混雑状況によっては乗車できない場合もあり、その場合には自力で病院へ向かってくださいなんて言われることもしばしば…。

3.どんな時に救急車を利用できるの?

救急車を呼ぶべきかという判断は難しいところです。NHSでは下記の状況下では躊躇せずに救急車を呼んでくださいと言及しています。

・意識不明
・急性錯乱状態
・胸部の痛み
・呼吸困難
・出血多量
・重度のアレルギー反応
・重度の火傷
・脳卒中
・交通事故などによる重度の精神的外傷

上記の症状がある場合、または上記の症状を伴う人を発見した際には、迷わずに救急車を利用しましょう。

また、救急車を呼ぶほどの緊急時でないが医療従事者からのアドバイスが欲しいという場合には、「111」にダイヤルしましょう。すると近くのGPを紹介してくれたり、正しい処置についてアドバイスをくれたりします。

4.旅行者など短期滞在者の医療について

ここまではイギリス在住者の医療事情についてご紹介してきました。では、旅行者や出張者などイギリス在住者でない人の医療費はどうなるのだろうかと気になる方も多いはずです。

NHSによると、欧州経済領域(EEA: European Economic Area)外の人に対してはNHS標準価格から150%*⁴の医療費が請求されるとしています。

また、EEA外の人がイギリス国内で医療サービスを受ける際には事前に支払いが必要となります。しかしながら、救急車の利用などを含む緊急時においては医療費を請求されません。(病院が緊急時と判断した場合に限ります)

このように場合によっては医療費の請求が高額となることもあります。短期滞在でイギリスを訪れる際には、旅行保険への加入を強くお勧めします。

クレジットカードの付帯サービスにも海外旅行保険付きのものがありますので、トラベルライターとして渡英を計画している方はこちらも検討してみてください。常備薬など普段から処方している薬がある方はこちらもどうぞお忘れなく。

*4: NHSには、National tariffと呼ばれる標準価格が設定されています。これはNHSを利用せずに治療を受ける際(緊急治療など)における目安価格となり、更には医療従事者が受け取る金額の目安となります。

参考料金:

治療内容金額
一般外科診療 £168 (約2万3千円)   
足の骨折手術費 £1,008~3,026 (約14万~40万円)  ※手術の内容によって金額が変動します。

※上記はNHS標準価格から算出した価格なので、一般的に公立病院に適用される価格です。日系病院を利用する際には更に金額が高くなる可能性があります。

海外の救急車の非常灯

【ロンドン近郊 日系病院一覧】※在英国日本大使館HPより抜粋
下記は、全て日本人医師が診察を行うクリニックです。

ジャパングリーンメディカルセンター(アクトンクリニック・レディースクリニック)/ Japan green Medical Centre Acton Clinic & Ladies Clinic
所在地:Unit 7, Acton Hill Mews, 310-328 Uxbridge Road, London W3 9QN
電話:(020)-7330-1750・FAX:(020)-7330-1751
概要:http://www.japangreen.co.uk/
特徴:日本人コミュニティー地区に位置しているのでアクセスが良く、女性専用クリニックでは日本人医師による産婦人科診療が受けられるので安心。

ジャパングリーンメディカルセンター(シティクリニック)/ Japan Green Medical Centre City Clinic
所在地:10 Throgmorton Avenue, London EC2N 2DL
電話:(020)-7330-1750・FAX:(020)-7330-1751
概要:http://www.japangreen.co.uk/
特徴:日系企業オフィスからのアクセスが良く、日本と同じ医療をモットーに安心のサービスを提供している。

ロンドン医療センター / London Iryo Centre
所在地:234-236 Hendon Way, London NW4 3NE
電話:(020)-8202-7272・FAX:(020)-8202-6222
概要:http://www.iryo.com/
特徴:24時間365日の診療体制で緊急時にも対応してくれる。内科、外科、小児科、婦人科などの全科に対応しており、デンタルクリニックも併設されている。

日本クラブメディカルクリニック(北診療所)/ Nippon Club North Clinic
所在地:Hospital of St John and St Elizabeth, 60 Grove End Road, St. John’s Wood, London NW8 9NH
電話:(020)-7266-1121・FAX:(020)-7266-1107
概要:http://www.nipponclub.co.uk/html/02.html
特徴:東京慈恵会医科大学より派遣された日本人医師2名を中心に、質の高い医療サービスを提供し続けて40年以上の老舗医院。

Dr伊藤クリニック / Dr Ito Clinic
所在地:96 Harley Street, London W1G 7HY
電話:(020)-7637-5560
概要:http://www.dritoclinic.co.uk/
特徴:疼痛医療専門クリニックとして、体に生じるあらゆる痛みを根源から突き止め治療してくれる。英国政府 Care Quality Commissionの厳しい査察に合格し、認定を受けた日帰り手術を許可された専門病院。

5.おまけ COVID-19関連

現在、日本からイギリスを訪れることは可能なの?と気になる方もいらっしゃるでしょう。外務省が発表する「感染症危険情報」によると、世界の多くの国において「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」となっています。

イギリスもレベル3となっており、現段階では、短期居住者や留学、特別な理由を有する人以外の入国が認められないケースもありますのでご注意ください。

また、日本からイギリスへの渡航者に対して14日間の自己隔離制限は解除されています。(2020年7月10日に解除となりました)

イギリス在住者で、コロナウィルス感染の疑いがある人はNHSで無料のテストを受けることができます。これは無症状者には適応されません。COVID-19に関しての相談は「111」(イギリス国内からのみ)にダイヤルしてください。

NHS COVID-19というアプリを利用して、自分の住んでいる地域の感染状況を調べることができます。Bluetoothを繋ぐと自分の住んでいる地域の警戒レベルを確認できるようになっています。

さらに、現在イギリスでは飲食店などの入店時には来店者情報を記録する必要があり、その際にもこちらのアプリを利用することができます。店外に掲示してあるQRコードを読み取り、入店情報を記録することができます。

NHS COVID-19アプリ

アプリのダウンロードはこちら

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AndroidGoogle Play

一日も早くコロナウィルスが終息し、渡航制限なく海外に足を運べる日が来るといいですね!

【参考】
・NHS (https://www.nhs.uk/using-the-nhs/nhs-services/)
・NHS – National Tariff (https://www.england.nhs.uk/pay-syst/national-tariff/)
・英国日本大使館 (https://www.uk.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html)

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