「旅行好きなら誰でもトラベルライターになれる!」のような文言を時折見かけることがあります。確かに旅行が苦にならないことは、トラベルライターには必須のスキルとなるでしょう。
しかし、それだけでトラベルライターとして成立するのかというと、実際は少し異なる場合があります。また、トラベルライターを何年も続けていき、「もう旅行はお腹いっぱい」と考えたときは、転職を余儀なくされるのでしょうか。
今回はトラベルライターとしてのスキルと、旅行をしないでライター業を続けて行くことができるかどうかについて、詳しくご紹介します。
トラベルライターでコミュニケーションスキルはどのくらい必要?
「私はあまり人と話すのが得意じゃないけど大丈夫?」
「トラベルライターって一人で仕事する職業でしょ」
という声もよく耳にします。
トラベルライターのメインとなる記事の執筆業務は、確かに一人で黙々とこなすこととなります。クライアントとのやりとりもメールが主で、電話で話すことも滅多にありません。そのため、普通の会社員と比べると、商談を含めて人と話す機会はそれほど多くはないと言えます。
では、トラベルライターにコミュニケーションスキルがまったく必要ないのかというと、そういうわけでもありません。トラベルライターとして活動すると、必ず発生するのが「取材」です。
インタビューを相手にする場合は、質問力や対話力が求められます。質問は予め決めておき、それに沿って進行しますが、現場の雰囲気や新たに得た情報などから臨機応変に質問の内容を変えていく必要があります。
ただし、一見すると難しく感じるかもしれませんが、見方を変えれば、対話といっても、こちらは相手の話を聞くだけなので、求められるコミュニケーションスキルと言えば、相手を気持ちよく話しをさせるための相槌であったり、テーマから脱線しない質問表の作成くらい。
また、海外取材の場合は大抵通訳をつけて取材に臨むので、緊張もそれほどしませんし、外国人はこちらがむしろ制止しなければならないほどたくさん喋ってくれるので、会話に詰まる心配もありません。
神経質もスキルの一つ。トラベルライター成功の近道
トラベルライターの経験上、「ちょっと自分は細かいかな」と多少神経質な方の方が、いい仕事をしている印象があります。
例えば写真撮影であれば、「このくらいたくさん撮っておけば、1枚くらい使えるやつあるでしょ」と思う人と、「撮影枚数はたったの5枚。でも妥協をしない」と何度も構図やカメラの設定を変えて取りなおす人を比べた場合、後者の方が結局綺麗な写真を撮っていることが多いです。
前者の場合は1つのスポットで100~200枚ほど写真を撮影するのがざらですが、場合によってはすべて使い物にならないことも多々あります。
また、文章を書く上でも、句読点の位置や助詞の使いどころ、漢字の有無、接続詞の有無、体言止めの回数などは文筆家でも意見が分かれるところ。
自分が書いた文章を読み直すにあたって、誤字脱字だけをチェックして、文章の受け止め方に対して何も意見を持たない人は、往々にしてライターに向いていないと言えるかもしれません。
一方で「100回見直したら100回修正する箇所がある」という方は、トラベルライターとしても成功するスキルを持っていると言えるでしょう。
想像力と論理的思考、どちらがトラベルライターにとって大切か
トラベルライターに求められるスキルは「ゼロから1を作る」こと。「ライターはゼロから1を作り、編集者は1を10にすることに長けている」とはよく言われること。
ライターとして編集者と関係を築いていると、必ず一度は編集者に対して、「こんだけ文章が上手いんだったら、自分で書けばいいのに……」と思うものですが、編集者は文章のプロであり、書き起こしのスキルはライターならではのものとなります。
書き起こしは想像力や感受性が豊かであればあるほどスムーズにいきます。しかし、では文章を執筆するにあたって、想像力が最も大事かと言うと、そうでもありません。
基本的にトラベルライターは、観光スポットや歴史、国際など、事実として存在するものを文章に起こします。
そして、文法というのは非常に体系的に論理的に作られているので、国語を正しく操るというのは、想像力ではなく論理的な見方や理解力が要求されます。比率で言えば想像力:論理的思考力=3:7といった割合です。
ですので、「自分は想像力がない」という方でも、トラベルライターになるに当たって問題はまったくありません。
実行力もトラベルライターにとって大切なスキルの1つ
トラベルライターの日常は、毎月決まったクライアントから決まった記事の数を執筆します。しかし、何かしらのイベントが海外で開催される場合、クライアントから「今週の週末にベトナムのホイアンでランタン祭りがあるんだけど、取材行ってきて」といった依頼がくることがあります。
依頼を受けたら当日中に航空券とホテルを手配して、スーツケースに荷物をまとめる。そういった実行力はトラベルライターでは常に求められます。海外旅行が好きであっても、それは好きなときに好きな国へ行けるからであって、強制的に日時と場所を指定されて行かされるのとはわけが違います。慣れないうちは戸惑うこともあるでしょう。
旅行をしないでもトラベルライターは継続できる?
トラベルライターであり続けるからには、年中旅行をし続けなければならないのでしょうか。例えば病気を患ってしまった、新型コロナで海外渡航の制限がある。結婚したので1つの国に留まることになった。正直海外旅行に疲れてきた。そんな状況に立たされたとき、トラベルライターが取るべき道はどういったものが考えられるのでしょうか?
転職もまた一つの選択
トラベルライターを経験すると、そこで培ったスキルを活かして、別の業界の記事を書くこともできるようになりますし、出版社や編集プロダクションなど作る側の人間に立つことも可能。旅行会社への就職だって有利に働くはずです。転職したからといって、トラベルライターとしてのキャリアは落ちぶれるわけではありませんので、また気が変わって復帰したいのであれば、名刺を作るだけでいつでもトラベルライターに返り咲くことができます。しばしの小休止として転職を検討するのもいいでしょう。
旅行は最小限に留め、トラベルライターを続ける方法
旅行を最小限に留めて、なおかつトラベルライターを続けて行く方法もあります。例えば2~3か月に一度、複数都市を半月ほどかけて回って取材をし、写真のストックを数千枚貯めておくことができれば、取材した都市に関しては向こう1~2年は足を運ぶ必要はなくなります。お店記事に関しては、使用する画像をお店担当者に送って、今でも変更はないかを確認するだけ。観光スポットやホテルの場合は、先方から送られる商用写真で対応することも可能です。
これまで不特定多数の国を回ってきたのであれば、1つの国・都市に腰を据えて、その国に特化した在住ライターとなるのも1つの手です。たまに近隣諸国の執筆依頼やツアーの参加依頼が来るかもしれませんが、そのときは旅行感覚で快く引き受けることもできるかと思います。
トラベルライターに向いているか否か。その前に実際なって確かめてみては
トラベルライターに向いているか否かは、実際のところ、なってみなければ分かりません。しかし、ここで紹介したように、トラベルライターとして求められる資質やスキルというものは多少なりともあります。
もし「自分ならいけそう」と考えるに至るのであれば、まずはトラベルライターを名乗ってみることからはじめてはいかがでしょうか。