近年需要が高まっている海外現地情報記事。それに伴い旅行ライターも幅広い業界に求められるようになりました。しかし、実際のところ、旅行ライターとして5年、10年とキャリアを積み重ねている人はほとんどいなく、大半は夢半ばで日本に帰国している様子です。
そこで、今回はベトナム旅行ライターとして10年以上のキャリアを持つフリーライターが考える成功の道ををご紹介します。
単なる旅行好きでは旅行ライターは成功しない
これから旅行ライターを目指す人に、まず伝えたいことは「旅行好きというだけで旅行ライターを末永く続けることは困難である」ということです。
よくよく考えてみると想像できるのですが、旅行がなぜ楽しいのかと言うと、自分の好きなときに好きな場所に行くことができるからです。そのため、誰かに強制されて、興味のない場所に向かわされる出張や駐在を心待ちにしている人はいませんよね。
しかし、旅行ライターになったからには、当然クライアントの意向次第で、自分がまったく興味のない、あるいは行きたくない場所に取材に行くことだってざらにありますし、「悪いんだけど、明日ホイアン(ベトナム中部世界遺産)でイベントがあるから、取材に行ってきて」と突然言われ、当初の予定をキャンセルしてその日のうちに飛行機に乗って現地入り……なんてこともあります。
無論、断ってしまったら、次から依頼が来ない可能性が高いので、否応なしに引き受けるしかありません。
旅行ライターを長く続けていると、海外現地ライターに求められるのは旅行好きではなく、「依頼があったらすぐに行動にうつせる」行動力であることが分かります。
お金に無頓着な旅行ライターは成功しない。
旅行ライターというと、自由に生きるデジタルノマドといったイメージがあります。しかし、旅行ライターもフリーランスとして立派な個人事業主であり、職業となります。
会社員であるうちは、上司に指示された仕事をまっとうし、毎月決まった日に決まった金額の給料が銀行に振り込まれます。
しかし、旅行ライターになった場合は、お金を勘定してくれる経理もいなければ上司もいません。一見楽に見えますが、自分で取引先の開拓から請求書や領収書の発行、報酬の振込確認などをしなければなりませんし、収入が上がってくれば、無論納税も必要となります。
旅行取材と経費の関係。賢い取材術を身につけて
クライアントの意向でベトナムの世界遺産を取材する際、経費として申請できるのは「移動費」、「2泊分の宿泊費(1泊5000円以下)」、「入場料」でした。経費申請の際にレシートを送付するので、水増しなど姑息な真似はできません。
しかし、正直なところ1つの案件のためだけにわざわざ飛行機に乗って仕事に行くとなると、手間賃も含めて精神的な赤字となります。
そのため、このような遠方取材が入った際は、クライアントの仕事を終えたあとは、引き続き現地に留まり、将来的に使えそうなスポットの取材を続けます。日数にすると、最低でも1週間は現地に留まるようにします。
写真は1つの取材対象で200枚以上撮影しますし、予め英語と現地語で取材承諾書と質問表を印刷しておくことで、担当者に用紙を渡すだけでスムーズに取材に臨むことができます。
ライティング自体にかかる経費はありませんので、言うなれば粗利は100%。そのため、赤字の原因となり得る移動費と宿泊費を最小限に抑える工夫を自分なりに考えることができる旅行ライターが成功をつかむことができると言えるでしょう。
海外旅行ライターは旅行関連会社に定期的に名刺を置きに行く
海外旅行ライターは特に実行してほしい仕事が、定期的に旅行関連会社に自分の売り込みをすることです。旅行関連会社とは主に下記となります。
- 旅行会社
- ツアーデスク
- ホテル
- 外国人旅行者人気のレストラン
- スパ・マッサージ
- お土産店
特にアジア圏は日本人旅行者が多いので、「うちのお店は日本人旅行者が売上のほとんどを占めている」というお店も少なくありません。また、現地の旅行会社も自分たちの催行ツアーを売り出したいと考えているので、「ツアーに参加して記事を書いてくれないか」といった依頼はよくあります。
海外であれば、営業先もそれほど多くはありませんので、一通り回って担当者と挨拶、もしくは名刺を置くようにしましょう。ふとしたタイミングで取材依頼のメールがあるかもしれませんよ。
WEB記事は「経験」、紙媒体は「キャリア」に影響
旅行ライターとして活動するならば、やはり雑誌書籍媒体への寄稿は目標であり憧れでもあるはずです。しかし、普段における収入の柱はWEB記事となり、紙媒体の依頼はあっても1年に数本程度。
しかも企画立案から求められるケースも多く、報酬と手間を比較するとまったく割に合わないことは確かです。しかし、日々記事を書くWEBライティングは言ってみれば「経験値を稼ぐ」ことに特化しており、紙媒体への寄稿は自身の旅行ライターとして「キャリア形成」に影響します。
会社というバックグラウンドのない旅行ライターにとって、活字印刷される雑誌書籍への寄稿は、旅行ライターにおける“軌跡”に他なりません。多少報酬が低く「割に合わないなあ」と感じても、できるだけ請け負うべきといえるでしょう。
紙媒体は報酬以上に得られるものが多い
紙媒体ではクライアントは出版社や編集プロダクションとなるため、印刷されるまでの工程を直に学ぶことができます。
編集者とやり取りする過程では校正についても学ぶことができますので、国語力のスキルアップに一役買ってくれるでしょう。また、基本的な校正ルールは全国同じなので、校正記号も覚えるいいきっかけとなります。
旅行ライターに捕らわれないで、複数の仕事を並行する
取り分け海外在住の旅行ライターに多い傾向ですが、夢半ばで旅行ライターを挫折して、日本への帰国を余儀なくされるライターのほとんどは、「ライター以外の仕事をしていない」人たちです。
海外記事の需要は年々拡大していますが、自分が居住している国・都市の記事がどのくらいの市場規模で求められているかは定かではありません。
また、仮に自らが営業をかけたとしても、潜在市場規模というのは不確かで、実際に行動して結果を得てからでないと分かりません。
「旅行ライターで食っていけなければ日本に帰る」という確固たる信念があればいいのですが「旅行ライターは続けたいけれど、海外に住み続けることが第一前提」ならば、旅行ライター1本ではなく、複数の仕事を同時にこなす必要がでてくるでしょう。
世界各国のライターを見ても、旅行記事だけで食べていける人は本当にごく僅かです。
ライターとして成功する最も重要な心構えは「旅行ライターではなく記者であるべき」
海外在住旅行ライターは、観光だけではなくその国の政治経済生活情報も執筆する機会に恵まれます。そのため、観光情報だけではなく、日ごろから居住国の歴史や政治背景なども学習するようにしましょう。
旅行ライターとして長く活躍するためには、「自分は旅行記事しか書かない!」と意地を張るのではなく、ジャーナリズムの精神であらゆる現地情報を文章に起こす使命感が求められます。
実際、海外で10年、20年と活躍しているライターは、全員が旅行ライターではなく、『ジャーナリスト』、『フリーライター』といった肩書で活動しています。