トラベルライターというと、世界各国を行き来して仕事場を選ばない自由度が高い職業としてみなされています。
確かにその通りではあるのですが、トラベルライターの中にも社会はありますし、取材時にトラブルが発生して困った事態に陥ることだって少なくはありません。
そこで、今回はトラベルライターを続けていくにあたって、一度は経験するであろうありがちなトラブルをご紹介します。
編集者との間に発生するトラブル
トラベルライターとして職務を全うしていると、必然と出版社や編集プロダクションから原稿執筆の依頼を受けることになるでしょう。
原稿の依頼を受けたあとは、担当編集者とやり取りをすることになりますが、どんなに小さな原稿であっても、ほぼすべてのケースで校正が入り、再校までやります。
初校を提出する前に何度も読み直して「これは完ぺきな文章だ」と思っていても、プロの編集者からすると穴ぼこだらけ。校正は一般的に赤字で修正されて返信されるのですが、まだ慣れないうちはその赤字の量にいら立つこともあるでしょう。
校正記号が読めない
紙媒体における原稿執筆の場合は、編集者は文章の修正にあたって校正記号を使用します。校正記号は文章の修正を筆者に端的に指示する便利な記号となりますが、この校正記号を巡る小さなトラブルも少なくありません。
最もありがちなトラブルは「校正記号の意味が理解できない」と言うものです。一般的に校正記号は日本全国で共通していて、JISによって使い方を定めています。
そのため、どの編集者に当たっても校正記号は統一されているのが普通となるのですが、老舗の出版社や編集プロダクションに在籍している編集者に比較的多いのが、“独自の校正記号を使っている”、“いまは一般的ではないマイナーな記号を使っている”というもの。
トラベルライターの方も「自分が知らないだけかも」とその校正記号の意味をネットで調べようとするので、いつまで経っても修正指示の中身が分からない……ということもあります。
編集者の文字が汚く、さらにモノクロで返信
こちらもよくある編集者との間に発生するトラブルの1つ。
最近はパソコンのワードの校正機能を使って吹き出しやペン入れをする編集者も多くなってきたので、「文字が読めない」ということはなくなっているのですが、まだまだ古い体質で原稿に直接赤ペンを入れる編集者も多くいます。
その場合に困るのが「修正指示の文字が汚すぎて読めない」というもの。編集者は1日何十枚もの原稿を校正しているため、時折殴り書きの文字が返ってくることがあります。
また、校正は分かりやすいように赤ペンで書くのが普通ですが、パソコンに詳しくない編集者は知らずにモノクロスキャンをして返信する人もざらにいるので、「文字が潰れて修正指示が見えない」、「見落としてしまう」といった事態に陥り、結果何度も再校したり、数十文字の修正指示文の意味を理解するのに半日費やしたりすることもあるかもしれません。
基本的にこれらは編集者のミスとなるので、トラベルライターに非はありません。相手にしっかりと伝えるのが業務を円滑に遂行するポイントとなります。
取材時のトラブル
続いてご紹介するのは取材時のトラブル。取材ではほぼ100%の確率で写真撮影を行います。しかし、トラベルライターは記事を書くプロであって、撮影のプロではありません。それが故に起こる問題というのも現場で多く見受けられます。
バッテリー切れ&周辺機器の忘れ物
取材撮影をする際でありがちのトラブルの1つが「バッテリー切れ」です。トラベルライターとして仕事に慣れるまでは、基本的に予備バッテリーを持つことは考えていません。
そのため、撮影時にバッテリーが切れて取材の続行が不可能となることも一度くらいは経験するでしょう。バッテリーは長く使っていると減衰してバッテリー切れが起こしやすくなります。
また、ナイトマーケットなど夜の観光地や、スパや博物館など暗がりの中での撮影も電池を食うのが非常に激しいので、仕事に慣れてきたら予備バッテリーは常時3~4個ほど持つようにするといいでしょう。
また、忘れ物の類でありがちなのが「三脚」と「SDカード」です。「レストランだから三脚は不要だと思っていたけど、照明が暗いため三脚なしだと手振れを起こす」、「昨夜パソコンに写真を移したあとにSDカードをカメラに戻すのを忘れてしまっていた」こんなトラブルも現地で遭遇することでしょう。
三脚は重くてかさばるので、あまり持ち歩きたくはないのがトラベルライターの本音。しかし、現場に到着したらすぐに「あ、これ三脚ないと撮影できないわ……」と感じたときは背筋が凍ります。
インタビューで相手の言葉が分からない
こちらも海外取材をこなしていくと遭遇するトラブルの定番です。インタビュー対象となるレストランやスパのオーナーが英語がまったくできなく、現地語を強いられることになるケースも少なくありません。
日本人旅行者が行きつけのお店の場合は、日本語を話せるスタッフが在籍している場合が多いので、その人が通訳をしてくれることもあるのですが、「日本語が話せるスタッフが今日に限って欠勤している」、「現地語を喋ってくれるものとばかり思っていた」と誤解があることも。
インタビューをする際は、事前にメールで日本語もしくは英語での会話が可能かどうかを質問しておくのがいいでしょう。
現地旅行会社とのトラブル
トラベルライターでは現地旅行会社と提携して業務を遂行することもあります。当該旅行会社の催行するツアーに参加して記事を執筆したり、旅行会社が提携するホテルを取材するのが主な依頼内容。しかし、この手の案件で頻繁に発生するトラブルが以下のようなもの。
ツアーの日程が驚くほど過密
日本本社から海外現地のツアー参加及び取材を依頼されたはいいけれど、実際参加してみたら数日にわたる非常に過酷な旅となることもあります。
具体例として、以前筆者がベトナムのホーチミン発シェムリアップ(カンボジア)の2泊3日ツアーに参加したときのこと。
現地のスタッフと連携を図っていくうちに「明日アンコールワットの朝日鑑賞ツアーがあるから、そっちも取材してよ」と言われて断り切れないで参加。朝5時前に起きて眠たい目をこすりながら重たいカメラと三脚を持っていくことに……。
さらに、同日夜には「まだ帰らなくていいんでしょ?明日はラオス国境に行くツアーがあるから、そっちにも参加して。朝4時にホテルロビー集合ね!」と……。
当初の予定にない依頼は自分で判断してしっかりと断りを入れることも大事です。
経費を巡るトラブル
旅行会社から取材の依頼が来た場合は、経費について話し合う必要があります。
旅行会社によっては報酬に経費が含まれていると考えるところもあれば、必要経費は別途申請してくれて構わない、というところに分かれます。トラベルライターが取材をする上で発生する必要経費は以下が考えられます。
- 移動費(タクシー・飛行機・バスなど)
- 宿泊費(ホテル代)
- 取材対象者への報酬
- 取材に発生する入場料や料理代
いずれもすべてを報酬で賄うとなると、到底割に合いませんので、必要経費は必ず依頼を受ける前に話合わなければなりません。ただし、しっかりとした旅行会社であれば、上記1~4はすべて経費で申請することができるはずです。
例えば宿泊費は1泊5000円以下、入場料や料理代は領収書が出るものに限って経費として認められる、といった条件はあるかもしれません。ただし、昨今は旅行会社も経費を厳しく絞っている傾向にあります。
現地までの交通費だけでも出してもらうことができれば、案件を終えたあとはそのまま自分の仕事を続けるために現地に留まることができます。トラベルライターにとって最も重くのしかかる経費は移動費となるため、それを旅行会社に出してもらえれば良しとするのも一つの考え方です。
自由の中には社会がある。トラブルは事前に予測して対策を考えよう
トラベルライターといっても何から何まで自由に仕事ができるわけではありません。クライアントや編集者と仕事をしていると、上記で紹介したトラブルは一度や二度は必ず経験するものです。そんなときはここで解説したことを参考に、焦らず解決方法を模索するようにしてみるといいでしょう。