トラベルライターとして日々記事を執筆していくと、ある種の目的地点となるのが「自著の執筆」です。しかし、普通の旅行記事のようにGoogleで検索して依頼主を見つけるわけにはいきません。
そこで、今回はトラベルライターを初めて間もない方に向けて、自著の依頼から執筆、脱稿までの流れをご紹介します。
流れをイメージすることができれば、より日々のモチベーションアップにも繋がるはずです。
出版社や編集プロダクションからの問い合わせから始まる
まず、冒頭でもご紹介したように自著を書くためには、自分でググっても依頼主を見つけることはできません。最も多いケースは出版社や編集プロダクションから直接依頼のメールが来ることです。
トラベルライターとして数年程度キャリアを積み重ねていると、さまざまな旅行サイトに執筆することになるので、そのプロフィール欄を依頼主が見て、メールで問い合わせてきます。
また、もう1つの方法として、こちら側から企画を編集プロダクションに持ち込むことも考えられますが、これは狭き門。
しっかりと自分のプロフィールとポートフォリオを作ったのち、ユニークな企画を提案することができれば、もしかするといい方向へと話が進むかもしれません。
空港の書店で売っているようなニッチ系な文庫本を出版する会社にまずはあたってみるといいでしょう。
まずは契約内容をしっかりと打ち合わせする
自著の執筆依頼が来た後は、綿密に契約内容を打ち合わせてください。基本は依頼主から書面(PDF)で書籍の内容と契約内容が送られてくるので、まずはそれを熟読して同意できるかどうかを確かめましょう。
印税&報酬はしっかりと吟味を
本のテーマが自分でも執筆できそうであれば、重要な印税や報酬面に対して打ち合わせすることになります。印税は6~8%が一般的となり、初版ではなく重版から発生するのが普通。
基本的に自著の依頼は企画出版となりますので、売れなかったときの赤字分はすべて出版社が負います。そのため、初版分はどうしても印税を受け取れないのが定番です。
「じゃあ無料で執筆するってこと?」とお考えかもしれませんが、元々知名度のないトラベルライターが書く本は、印税で懐が潤うほどの部数は売れませんので、重版されたとしてもせいぜい印税は年間1~5万円程度。
そこでトラベルライターの重要な収入源となるのが原稿料です。こちらが執筆の実質的な報酬となります。報酬の相場は出版社の規模や力の入れように寄っても異なりますが、30~50万円程度が一般的となるでしょう。
執筆作業の進め方
執筆の作業は本の分量やテーマによって異なりますが、通常は1か月に複数回の納品日を決めて、できた原稿を順次納品していくことになります。
普段のやりとりは担当となる編集者とメールで連絡を取り合いますので、記事を書く上で分からない点は編集者に相談することとなります。
校閲者が絡んで三位一体となって執筆するケースも
原稿の執筆は編集者と二人三脚で進行しますが、ビジネス書のような真偽が求められる場合は、校閲者が要所で事実確認を求めてくることもあります。
校正方法もいくつかパターンがある
納品した原稿は必ず編集者と校閲者によるチェックがあり、修正指示となる文章校正という工程が入ります。校正方法は大きく分けて下記の3つのパターンがあります。
1.編集者が修正内容をメールで提示
これは修正箇所がほとんどない場合の対応。わざわざライターに修正させるほどの量でもない場合や、必ず修正しなければならない「誤字脱字」の際に使われます。メールで修正箇所と内容がインラインで送られてくるので、それに対して承知した旨を返信するだけとなります。
2.ワードの校正機能を使ってやり取り
最近多くなってきたのがこのパターン。ワードファイルには校正機能がありますので、それをもってして修正指示があります。このメリットは「どこの文章に対してどのような修正を求めているのかが明確」、「修正履歴が残る」、「編集者によっての校正のクセがない」ことが挙げられます。
3.手書きで校正されて送られてくる
編集者によってはまだまだ手書きで校正する人も多くいます。しかしながら、手書きの校正の場合は「編集者の字が汚くて修正指示内容が読めない」という難関に当たることがあります。もちろん不明箇所は質問すればいいだけの話ですが、不明点が多ければ質問しづらくもなりますので、校正の対応に慣れていないうちは、ワードの校正機能を使ってもらう方が、ライターとしてはありがたいことでしょう。
校正は複数回に跨ることも。あまり力を入れすぎないのもポイントの1つ
最初の校正を「初校」と呼び、その次を「再校」、その次を「再々校」と呼びます。通常の旅行コラムや紀行といった本で再々校までやることはあまりありませんが、ビジネス本や歴史本などの本の場合は、再々校までやることも頻繁にあります。
どんなに文章に自信があって力作を納品したとしても、ほぼ100%の確率で何かしらの校正がありますので、トラベルライターに求められるのは力作を納品するよりは、執筆のスピードとなります。
1日でも早く、多く記事を納品した方が、何倍も編集者に喜ばれることは覚えておくといいでしょう。
最終段階に進むと、重要な「帯決め」がある
帯は小説やビジネス書などあらゆる本の表紙下についている、「〇〇がおすすめします」とキャッチコピーが添えられている腰巻です。例えばビジネス書を書く場合、現地で働いている大手企業の代表が「この本をおすすめします!」という帯があれば、消費者から信頼を得ることができます。
この場合は、基本的に帯の取得はトラベルライターに任されます。帯の取得方法は直接企業に問い合わせをするのではなく、その都市にある商工会議所に相談するのが通例です。
なるべく高い役職の人に帯を請け負ってもらえるように、商工会議所の担当者と打ち合わせをすることになります。
ちなみに、商工会議所は無料で帯探しを引き受けてくれますが、実際帯となる人にはいくらか報酬を渡す必要があるかもしれません(受け取らない人も多くいます)。その報酬額は編集者と打ち合わせすることになります。
ちなみに帯決めのときはまだ本はできあがっていないので、現時点で書き上げた(校正済)原稿を何枚か渡して、どんな本を書いているのかを伝えることになります。
キャッチコピーは編集者が幾つか候補を決めるので、その中から選んでもらいます。
脱稿までの期間はおよそ2~3か月
原稿をすべて納品し終える脱稿までの期間はおよそ2か月。校正終了までで3か月程度となります。400字詰原稿用紙換算で1日4~8ページ程度書く力があれば、意外と納期には余裕で間に合わせることができるはずです。
脱稿後は既定の日時で報酬の振り込みがあるほか、書籍ができあがったあとは完成本(出来本)が出版社から10~20冊程度送られてきますので、家族や知り合いに贈って共に完成の余韻に浸りましょう。
自著の依頼が来るようにするためには
「何年もトラベルライターとして活動しているけれど、一向に自著の依頼が来ない」と言う場合は、下記を実行してみてはいかがでしょうか。
- ニックネームではなく実名で活動する
- 自分のブログデザインを見直す
- プロフィールや実績をなるべく多く記載する
出版社や編集プロダクションは、直接会うことができない、目に見えない相手に本の執筆を依頼します。そのため、途中で投げ出されないか、音信不通にならないかなどを危惧するほか、相手の人間性も重要視します。
少しでもこちらの素性が分かるように実名で活動するのはもちろんのこと、自分がトラベルライターになったきっかけなど、できるだけ自分の人となりを知ることができるようなプロフィールを更新するのも必要となってくるでしょう。