アメリカの人種差別問題について

 アメリカは「人種のるつぼ」「人種のサラダボウル」とも例えられるほど、多種多様な民族が混在して暮らしている国家です。日本と比較してその多様性に驚かされることもしばしばあります。

近頃よく取り上げられている「ダイバーシティ」という言葉の意味を肌で感じられる国です。一方、アメリカにおける人種差別は古くから問題視されてきました。

近年では人種差別はかなり改善されましたが、残念なことに、アメリカにおける人種差別は今現在も存在しています。程度の差は場所や時勢にもよりますが、私自身も感じることが数点あります。

今回はアメリカにおける人種差別について、いくつかのテーマに分けてお話ししていきたいと思います。 

・アジア人(日本人)に対する差別

 私が住んでいるニューヨークには多くの日本人が暮らしています。他にもロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴなどは日本人の人口が多く、街中で観光客ではない日本人を見かけても珍しくはありません。

そのような地域では、日本人への差別を感じる場面はほとんどありません。しかし、国土の広いアメリカでは人口のほとんどが白人という地域もあります。そのような場所に行くと、物珍しそうにジロジロと見られたりすることもあります。

 また、アメリカでは「アジア人」=「中国人」と考える人が多いです。ただ中国人と勘違いして話しかけてくるだけの人もいますが、時には中国人ということを理由に馬鹿にしてくる人もいます。

そして日本人だと分かると態度をコロリと変えるケースもありました。「manga」「sushi」「toyoda」「Mt.fuji」などアメリカ人にも馴染みのある日本の文化は沢山あり、それらをポジティブに捉えているアメリカ人が多いのも事実です。

寿司

このように一概には言えませんが、まだ残念ながら人種差別が残っている、そしてその程度は地域や個人によって異なるのが現状です。

 私が差別を受けたと感じた回数は、アメリカにおいてそう多くはありません。先述した通り、ニューヨークでは日本人に対する差別は比較的少ないので、深く記憶に残っているのは合計3回です。

 1回目は、日本人の友人複数人と道を歩いている時、すぐ側を通った車からクラクションを鳴らされて「ニーハオ!」と叫ばれ目を細める仕草をされたことがありました。中国人に間違えられること自体は差別だとは思いません。

しかしながら、明らかにこちらを馬鹿にしたような態度で挑発的にクラクションを鳴らし、窓から身を乗り出してふざけていたので、憤りを感じました。

 2回目は、コロナウイルスが蔓延してからの話です。自宅のすぐそばを夫と歩いていると、「Hey!Corona!」と声を掛けられました。ちなみに夫も日本人です。

目も合わせず完全に無視をして通り過ぎたのですが、そのような考え方をする人がまだ存在しているのだと改めて肌で感じ、ガッカリするとともに恐怖を覚えました。

 3回目は、差別と定義するほどひどいものではないのですが、以前通っていた語学学校に、たびたびステレオタイプが含まれる発言をする教師がいました。

「日本人は大人しいから」「日本人の女性はみんなショートヘア」「アジア人の女性はすぐにセルフィーを撮る」など、気になる発言が数回ありました。教え方は上手だったので、私は英語の授業さえしっかりしてくれれば良いと特に問題視していませんでした。

しかし、自分自信も気が付かないうちに偏った考え方や差別的な言動をしていないか、また受取手の立場に立てているか、といったことにより注意を払おうと心掛けるようになりました。

 これらが私がアメリカ国内で感じた代表的な差別です。一方、差別をなくそうとする取り組みも肌で感じることができました。

例えば、語学学校の授業前に配られるシラバスを見ると、「宗教的な理由での休暇・遅刻・早退はいかなる場合でも認められる」・「授業内で教師の差別的な言動があった場合は報告してください」などの記載がありました。

また、様々な人種の人が暮らしているアメリカでは、食・ファッション・メイクなどを通しても多様性を感じられます。
  
 次に、私以外の日本人から聞いた話も少し取り上げたいと思います。

ハリウッド

 1件目は、ボストンのレストランでの経験です。日本人数名でレストランを利用した際、サーバーがなかなか注文を取りにこなかったり、後から注文をしていた他のテーブルに次々に料理が運ばれてきて、自分たちの料理がくるまでにかなり待たされたり、といったことがあったそうです。

あからさま・直接的なものではないので差別だと断言できないのですが、他の客と扱い方が違ったと感じたと聞きました。

 2件目は、私が経験したものに似ているのですが、知らない人からいきなり目を横に引っ張って顔真似をされたというケースです。

 3件目は、中学校から高校をアメリカのジョージア州で過ごした友人の話です。カレーやおにぎりの海苔、納豆など馴染みのない食べ物を馬鹿にされたり、気持ち悪いと言われたそうです。

食というのは文化によっても差異が出やすい部分なので、馴染みのないものや初めて見るものに対して拒絶反応が出ることはあると思います。しかし、それが原因で相手を傷つけるようなことがあってはいけません。

 このように、私以外にも差別を実感した日本人は多いです。ただ、ニューヨークやロサンゼルスなどアジア人が多く暮らしている地域の日本人は差別はあまりないと感じています。

一方、田舎や白人の多い地域ではまだ差別を感じるといった意見が多かったです。

・アジア人以外への差別

 アメリカにおいて歴史が深い黒人への差別ですが、未だに残る根深い問題となっています。最近でもニュースで取り上げられたり、ネットで物議を醸したりしています。

アメリカで暮らしていると、「黒人=危険で暴力的」というステレオタイプを持つアメリカ人にも出会います。

今月には、被害者が黒人男性・加害者が白人男性である銃撃事件の逮捕に踏み切るのが遅かったことから、「警察の対応は人種差別だ」という批判が挙がっていました。

 「ニグロ」「ニガー」という言葉は映画や音楽にたびたび登場します。特にこのような「Nワード」はヒップホップでは頻繁に使われています。

しかし、アメリカ国内でもこれに対する意見は分かれているようです。「全く使うべきではない」「表現の自由」「黒人コミュニティーに関わらない人が使うべきではない」など様々な意見が聞かれます。

日常生活でも使っている人を見かけますが、相手との関係性・冗談を言い合える仲なのか・どのようなニュアンスで受け取られるのか、などが掴みきれないうちは使うべきではないと言えます。
 
 ヒスパニック系移民に対する差別も、アメリカに住み始めてから強く意識するようになりました。

ヒスパニックとはメキシコ、キューバ、プエルトリコなどのラテンアメリカ出自の人を指し、「ラティーノ」と呼ばれることもあります。

アメリカにおいては最大のマイノリティー集団であり、現在はアメリカにおける人口のうち約20%を占めています。そしてその割合は今後も増え続けると言われています。

 昨年8月にはテキサス州エルパソにあるアメリカ国内の大手スーパーであるウォルマートで、銃の乱射事件がありました。

逮捕時、被告は「メキシコ人を標的にした」と話していて、22人が死亡、25人が負傷するという大変ショッっキングな事件となりました。このようなヘイトクライムと呼ばれる事件も実際に起こっているのが現状です。

 彼らは最大のマイノリティーであるため、ヒスパニック系として1つのコミュニティーを形成しています。例えば、街の一部にはしばしばヒスパニック街があり、ヒスパニックの人たちがまとまって暮らしています。

そこに位置する商店に行くと、買い物客や店主はスペイン語で会話をしていたり、お店に入ると「Hola!(オラ!=こんにちは!)」と声を掛けられたりします。

私はヒスパニック街にある小さなパン屋さんが気に入ってよく訪れるのですが、最初のうちはアジア人が珍しいのか、じろじろと見られる時もありました。

しかし、今では皆とてもフレンドリーに接してくれます。彼らの中には英語があまり得意でない人も見受けられますが、スペイン語コミュニティーが存在するお陰で、あまり不自由なく暮らしていけるそうです。

また、マクドナルドやケンタッキーフライドチキンなどのチェーン店に行くと、労働者はヒスパニックの人たちということが多いです。労働者同士はスペイン語でやりとりしていて、英語はほとんど聞こえてこない時もあります。

 ヒスパニックの人たちに対しては、「貧しい」、「犯罪の温床」、などと捉える人もいます。

トランプ大統領が当選して以降、アメリカ国内における差別的な価値観が増幅したという意見もあります。大統領による中南米からの不法移民への厳しい非難が影響を及ぼしたと言われているのです。

・対処法/気を付けること

 最も気を付けることとしては、差別的な言動をする人に抗弁する場合です。

差別をしてくる人は、アジア人や日本人に対して良いイメージを持っていない可能性が高いという前提を念頭に置く必要があります。そのため、反論したり注意したりすると、危害を加えられる可能性があります。

1人で行動している場合や、相手が危険だと感じる場合は、差別的な扱いを受けたとしても相手にしないのが賢明です。

 また、レストランや語学学校において差別的な扱いを受け、自分に危険が及ぶ心配がない場合は、はっきりと自分の意見を述べると良いでしょう。

また、英語で説明できない・時間がなかったなどの理由でその場で対処できなかった場合は、後からカスタマーセンターなどを通して苦情や改善を求める意見を伝えることもできます。

 自分自身に関しても、無意識のうちに差別的な言動をしていないか気を付ける必要があります。

例えば私たちが何気なくやっているOKサインは、近年WP(White Power=白人至上主義)のシンボルとして使われるようになりました。

昨年アメリカでは、フロリダ州のテーマパークであるユニバーサル・オーランド・リゾートの着ぐるみを着たスタッフが、当時6歳の少女と写真を撮った際、OKサインをしたという理由で解雇されました。

日本人にとっては、「了解」「大丈夫」などの意味を表すOKサインですが、差別的な意味にも解釈される可能性があるのです。

アメリカ人でも「了解」という意味でOKサインを使う人もいますが、白人至上主義のシンボルと受け取られる可能性もあるとのことで、私はうっかりと使わないように注意しています。

このように、意図しない受け取り方をされる可能性もあるので、海外では言葉選びやジェスチャーに対してより慎重になることが必要です。

 トラベルライターとして現地人に取材にあたる際も、「郷にいれば郷に従え」と心がけて、現地では自分の慣習を押し付けないことが大切です。

また自分の価値観にあてはめて物事を考えたり、決めつけやイメージだけで発言をするべきではありません。

「家の中で靴を脱がないのは汚くない?」「アメリカではハンバーガーをよく食べると聞くんだけど・・・」「不健康な食生活なんでしょ?」など、一部は事実であったとしても自分が当てはまらない事象を述べられると不快に感じる人もいます。

例えばアメリカ人は不健康な食生活を送っている人が多い、というイメージに関してですが、確かにピザやハンバーガー、ステーキなど高カロリーな食事を取る機会が多いのは事実です。

しかしながら、スーパーに行くとオーガニック食品が日本よりもはるかに充実していたり、乳製品を取らないように気を付けてソイミルクやアーモンドミルクなどを選ぶ人も大勢います。

このように「一概には言えない」というのが多くのケースです。自分が取材をする立場の時は、「〜なんだよね?」「アメリカ人は〜」などの表現を避けるか、受取手がステレオタイプと捉える可能性のある発言はないかと慎重になることが大切です。

 アメリカにおける人種差別は、悲しいことに「全くない」とは言えません。しかしながら、差別的な発言や態度を取るのは一部の人たちで、アメリカ国民が皆そのような考え方をしている訳ではありません。差別をなくそうという努力や取り組みも豊富に見受けられます。

 アメリカに行く際は、自分自身も相手の受け取り方によって差別的な言動をしていないか、人種差別主義者によって身の危険がないか、等に気を付ける必要があります。この記事がアメリカの人種差別について理解を深める一助となれば幸いです。

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