旅行ライターの日々の取材対象は観光スポットやお土産店、スパ、レストランなど幾つかありますが、その中で最も難易度が高いと言われるのが「ホテル業界」です。旅行ライターにとってはいささか特殊な取材先でありながらも、年間を通して定期的に取材依頼が入るので、苦手意識は克服しておきたいところ。
そこで、今回はホテル取材を円滑に済ませる方法と担当者との一部始終のやり取り、及びスケジュールなどをすべてご紹介します。
ホテル取材の依頼主はどんな業界?
ホテルの取材依頼をするクライアントはどういった業界が多いのでしょうか。まず、年中依頼が来るのが「旅行会社」となります。
旅行会社は提携しているホテルにお客を流すことによって手数料を受け取ることができ、その契約内容はホテルによって異なります。そのため、日本人に人気のホテルや、契約内容が割のいいホテルに対しては積極的に旅行者に紹介する必要があります。
そこで、自社のウェブサイトのホテル概要ページにてホテルの詳細内容を記事にすることで、旅行者がGoogleでホテル名を検索した際に上位に順位表示されることを目的として、記事の依頼を旅行ライターにします。
続いて旅行依頼が多い業界は「旅行サイト」です。旅行サイトはagodaやエクスペディアといったホテル予約サイトと連携しているので、ホテル記事を作って、最後に上記の予約サイトに誘導する仕組みとなります。
それ以外では「出版社」も少なくありません。出版社の場合は主に旅行ガイドブックに掲載するホテルの取材が主となりますが、出版社の中には自社で旅行サイトを運営しているところも多いので、自社HPの記事依頼も同時に来ることがあります。
ほかには編集プロダクションがストック用に持ちたいと依頼してきたり、航空会社もデータの更新目的に依頼するケースがあります。
ホテルから直接問合せが来ることもある
また、ホテル側から自社ホームページの記事の更新依頼をしてくることもあります。多くは日本国内のホテルですが、海外の場合は日本人旅行者のマーケティングを重要視したホテルとなり、記事による自社ブランドの情報発信が目的となります。
ホテルからの依頼の場合、年間契約となることが多いので、最初の契約内容が重要となります。所管としては、海外ではライターの記事は高く評価される傾向にあるため、日本企業よりも海外ホテルの方が記事単価は高い傾向にあります。
ただし、現地価格で提示される場合もあるので、割に合わないようならば必ず交渉するようにしましょう。足元を見られているのではなく、単に記事の相場を知らないだけの可能性が高いです。
ホテルの取材が入って最初にやるべきこ。まずは「ファクトシート」をもらう
ホテルの取材が入って最初にやるべきことは、「ホテルのファクトシート」を貰うことです。自分がホテルに直接問合せできないようならば、依頼主に送ってもらうようにしましょう。現地に支店を構える旅行会社であれば必ず持っている書類ですが、それ以外の業界だと保有はしていない可能性がありますので、なるべく早めに要望を出しておくといいでしょう。
ファクトシートはホテルの情報が細かく記載されている書類で、ホテルの創立年や部屋タイプ、部屋数、敷地面積、ホテル内ファシリティサービス、営業しているお店の営業時間や収容人数などが細かく情報として掲載されています。ファクトシートが手元にあれば、都度ホテル内の基本情報を担当者に質問する必要はありませんし、取材スポットの取りこぼしもなくなります。
ホテル取材当日までに用意・準備するもの
ホテル取材に必要なものは一般的に下記となります。
- カメラ機材(三脚、予備バッテリー、ストロボ、レンズ)
- チェックリスト
- 名刺
- パソコン
- USBメモリー(外付けなら何でも可)
カメラ機材で注意したいのは、レンズは必ず広角を持っていくことです。シングルの狭い部屋やスパなどを撮影する際、広角がないと話にならないことが多々あります。
また、チェックリストは、担当者への質問事項を箇条書きにしたものと、取材をするスポットをまとめたもの。これさえ押さえておけば、取材忘れにより再度取材に行くトラブルはなくなります。
忘れがちのものとしてはUSBメモリー。基本的に大手のホテルになると、取材で撮影した写真が掲載許可がもらえない場合がありますし、旅行雑誌に載せる場合の多くはホテル側が用意する商用写真で賄います。
通常は写真データをCD-ROMに保存して受け取ることができますが、担当者によっては「USBにコピーした方が早いね」と言ってきてくれることもあります。USBなどを忘れた場合は、後日Googledriveなどで共有してもらうといいでしょう。
取材当日のスケジュール
取材当日の大まかなスケジュールは下記の流れとなります。多少前後しますが、基本的にホテルの規模関わらず、似たようなスケジュールでことは進むはずです。
- ホテル担当者と挨拶&名刺交換
- 取材許諾書などがあれば、サインを貰う
- ファクトシートを元に、撮影したい部屋、スポットを担当者に伝える
- ホテル担当者と一緒に撮影取材。移動中にチェックリストにある質問などを消化する
- 一通り終わったら、ホテル保有の商用写真のデータを貰う
- 解散
注意する必要があるのは3.となります。基本的に撮影したい場所は、旅行ライター側が独断で決めて指示を出します。もし指示を出さないでホテル側に任せてしまうと、最悪すべての部屋タイプの写真や施設を回ることにもなりかねません。
部屋は見栄えのよさそうなタイプを3つほど選び、あとは写真映えするレストランやプール、海、スパ、ホテルの内外観の撮影に時間を費やしましょう。撮影取材はホテルの規模にもよりますが、おおよそ90分から2時間程度を目安に終わらせるようにするといいかもしれません。
ホテル取材のあるある。「原稿チェックをしたい」と言われた場合の対応
取材後にホテル側が「記事ができたら見せてよ」と言ってくることがあります。この場合、「記事が公開・出版されたら、その記事のURL、もしくは文面のPDFを送ればいいのか」、それとも「記事が公開される前にチックして、場合によっては写真の差し替えや文章の修正をしたいのか」が考えられます。
前者の場合は、掲載予定の媒体がウェブサイトであればURLを送るだけなので問題ないのですが、ガイドブックや書籍など、紙媒体の場合は現物を送ることは難しく、また旅行ライター自身が海外在住だと、そもそも現物を手に入れることができませんので、その旨を正直に伝える必要があります。
一方で後者の場合は注意が必要。まず、ホテル側に事前チェックさせると、記事の内容で「〇〇をPRしてほしい」などと売り込みをかけられる可能性が高いです。記事はあくまでもライター主体で書くホテル紹介記事なので、ホテルのPR記事になってはいけません。
PR記事になってしまうと、企業の広告案件に発展してしまい、自分の下せる裁量の範疇を越えてしまいます。「事実関係の修正は承れるが、内容の変更は難しい」ことは思い切って言ってもいいかもしれません。
旅行ライターがホテル担当者にインタビューする際の注意事項
旅行ライターがホテル担当者のインタビュー記事を掲載する場合は、ちょっと注意が必要です。相手の役職にもよりますが、重役になればそれだけ日ごろから取材や質疑応答にも慣れていますので、こちらが経験が浅い場合はすぐにばれてしまいます。
もし旅行ライターが20代の若い年齢であれば、「すみません、取材経験ほとんどないので」と自ら申し出て、むしろ可愛がってもらう体で臨むのもぜんぜん有りです。取り分け海外で働くホテル担当者は個性的な人も多くいるので、少し会話して相手が気難しそうな気質だと感じた場合は、叱咤を受ける前に先手を打っておくのがいいでしょう。
また、インタビューにあまり慣れていない旅行ライターが取材をすると、「インタビューが10分くらいで終わっちゃった……」というケースに遭遇することもあります。
事前に作った質問表に沿って重点だけを質問していくと、このような事態に陥りがちです。お互い物足りない感じでインタビューが終わってしまうかもしれませんが、それでも問題はありません。
旅行ライターの鬼門のホテル取材。担当者と良好な関係を築こう
旅行ライターとしての活動がまだ慣れていないうちは、ホテル取材が入ると「あー、嫌だなあ」と憂鬱になることも多々あります。
ただ、ホテル取材をこなすと、旅行ライターとして『箔』が付くだけではなく、数年先にその時の担当者から「実はあれから別のホテルに移ったんだけど、そこで日本市場のマーケティングとしてホームページを立ち上げることになったんだ。その更新をお願いできるかな?」といった思いもよらない依頼メールが来ることもあるかもしれません。
なるべくホテル担当者とは数多く名刺を交換しておき、良好な関係を築くようにしましょう。