海外留学や海外移住で必要なものの一つに銀行口座があります。国によっても銀行口座の作りやすさや使いやすさ、銀行口座開設においての審査基準などが異なります。
昨年末、イギリスに移住した私も銀行口座を開設したのですが、その開設方法に驚きました。なんと100%携帯アプリを利用して作業が行われるのです。
今回はイギリスの銀行開設手順とこちらのアプリについてレポートしていきたいと思います。
1. イギリス銀行口座開設の基本
はじめに申し上げますと、イギリスでの銀行口座開設は簡単な作業ではありません。まず、口座開設における審査が厳しいです。
まず、銀行口座が必要な理由が明確でないといけません。例えば、お給料の振り込みに必要である。または、留学生の場合には親からの仕送り先として必要だから。
など住んでいるというだけでなく、口座を必要とする理由を説明できなくてはいけないというのがポイントです。
また、イギリス人であれば直接銀行を訪れることなく口座を開設できるのですが、私たち外国人は直接銀行を訪れる必要があります。
口座開設時の必要書類
銀行によっても多少異なりますが、基本的に必要とされる書類は以下の通りです。
・身分証明書 (Proof of ID) – パスポート、イギリス運転免許証、バイオメトリックカード(ビザ証明書)など
・住所証明 (Proof of current UK address documents) – イギリス運転免許証、光熱費などの明細(自分の名前宛の明細である必要がある)、その他のイギリス銀行明細、イギリスクレジットカード明細など
学生の場合、上記に加えて
・学生証明書 (Proof of your student status) – 学生証、または学校から発行してもらう通学を証明するレター
身分証明書、住宅証明はそれぞれ別の書類が必要となります。そのためイギリスの運転免許証を身分証明書+住宅証明として利用することはできません。
2つ目の住所証明ですが、留学生やワーキングホリデーなどで滞在している人は自分の名前入りの光熱費明細などを用意するのが極めて難しいです。
この場合、通学している学校や、職場にレターを発行してもらい代用という方法もあります。学生専用口座を設けている銀行もありますので、学生の方はこちらも検討していただくといいでしょう。
また、イギリスで働く人が必ず取得しなくてはいけない国民保険番号(National Insurance No.)というものがありますが、こちらの書類を住所証明として使える銀行もあるようです。
詳しくは、口座を開設する銀行に直接確認するとよいでしょう。また、駐在など期間限定で滞在を予定している場合には、会社からの雇用証明レターの提示を求められる銀行もあるようです。こちらも、事前に銀行に確認するとよいでしょう。
イギリス銀行口座の種類
・当座預金口座(Current Account) - 給料の受け取りや家賃・光熱費の支払い、日々の買い物などで使用する口座です。こちらは基本的には利子はほとんどつきません。
・普通預金/定期預金口座(Saving Account) – 利息の高い貯蓄用口座。普段使わないお金を定期預金として入れておきます。
イギリス主要銀行4社
・Barclays (バークレー銀行)
・Lloyds Bank (ロイズ銀行)
・HSBC (HSBC銀行)
・NatWest (ナットウエスト銀行)
今回紹介していくのは、1690年創業である老舗のBarclays Bankです。
2. 銀行口座開設手順【Barclays】
1.でも述べたように、まずは銀行口座開設にあたって予約を取る必要があります。予約なしで対応している場合もあると思いますが、常に銀行は混雑していますので事前予約をお勧めします。予約をとったら、当日までに必要書類を準備し、いざ銀行へ。
担当者と簡単な雑談を済ませると、早速口座開設作業に入っていきます。担当者より、「まずは携帯電話を出して。」と言われました。言われるがまま携帯電話を取り出すと、「Barclaysのアプリをダウンロードしてください」と言われました。
少し戸惑いましたが、言われた通りにアプリをダウンロードすると、担当者より「では、このアプリを利用して口座を開設していきます。」と言われました。
こちらの銀行では、現在この携帯アプリを利用して口座の開設をするというシステムに切り替えています。
手順Ⅰ 個人情報を入力
氏名や生年月日、配偶者の有無、国籍などに関する情報。さらには過去3年の住所。連絡先。勤務先情報、職種、年俸の入力までかなり細かい情報を入力していきます。
手順Ⅱ IDチェック
パスポートの写真や必要書面を携帯電話のカメラから撮影できるようになっており、ここで本人確認が行われます。
一連の操作は、基本的にアプリの指示に従って進めていきます。銀行のスタッフは、サポート係として質問などがあれば助けてくれます。また、口座の開設時に入金の必要はありませんので、手持ちのお金がなくても大丈夫です。
その場でキャッシュカードを受け取ることはできません。基本的には、登録した住所に7日から10日で郵送されます。ちなみにイギリスのキャッシュカードはデビットカードになっていますのでとても便利です。£30以下の買い物であれば、カードをかざすだけで買い物ができ、暗証番号の入力は必要ありません。
3. Barclaysアプリのここがすごい
ここまで聞いたあなたは、このアプリの一体何が便利なのだろうかと感じられるでしょう。このアプリの便利な点をもう少し詳しく説明していきます。
アプリの優れる点
その1.徹底したセキュリティー
携帯アプリは、一度開くと開きっぱなしにしてしまいがちですが、このBarclaysアプリは一度ホームボタンからホーム画面に戻ると自動的にログアウトされます。
そのため、個人情報の保護が徹底されています。再度ログインするには5桁のパスコードを入力しないといけません。スクリーンショットもできない設定になっていますので、こちらもセキュリティーの観点から安全性が高いなと思います。
さらに、銀行振り込みを行う際も、セキュリティーコードの入力が2度必要です。これは、登録した携帯電話番号と紐づけされており、セキュリティーコードがこちらの番号にテキストで送られてきます。
セキュリティーコードの入力が必要な銀行は他にもありますが、1度だけという銀行が多いです。こちらの作業が2段階で行われ、それぞれ別の番号を入力する必要があります。
これは振込している本人の誤操作確認にもなります。さらには、振り込み後にすぐにemailアドレスに振り込み情報が送付されてきますので、悪用された場合のフィルターが徹底されています。
また、クレジットカードを紛失した際、盗まれてしまった際にこちらのアプリを利用して報告ができます。カードの一時的な凍結もこちらのアプリから行うことができます。
その2.アプリから電話
アプリを開くと、Contact usというボタンがあり、そこからオペレーターに電話を掛けることができるようになっています。ここから電話をすると、オペレーターはこちらの銀行口座保持者の情報が瞬時に確認できるようになっています。
皆さんも一度は経験したことあるはず。本人確認のために生年月日を聞かれたり、パスワードやらセキュリティークエスチョンを答えてくださいと言われたりして困ったことがある方も多いはずです。
この作業が全て省かれるというのは、このアプリの凄いところです。 実際に他の銀行利用者は、このセキュリティークエスチョンを間違えたためにロックが掛けられてしまい、大変な思いをしたという話も聞いています。
イギリスの銀行は、セキュリティーに厳しい分、一度ロックされてしまうと解除するにも一苦労なのです。
その3.連携したサービスの提供
こちらのアプリからは、口座残高照会。振り込みや送金はもちろんのこと、他にも様々なサービスが提供されています。銀行の開設時に勤め先や年俸などを入力したのには理由があるのです。
ローンの相談。住宅ローン(Mortgage)の審査。投資についての相談。保険商品についての相談。クレジットカードの審査。これらは一例ですが、このようなサービスがこのアプリから利用できるようになっています。
その2.でも述べたように個人情報は全てリンクしていますので、時間を掛けることなく適切なサービスを受けることができるという点でも画期的だなと思いました。
- ローン関連サービス
ローン関連については、アプリから直接の申請はできません。しかし、アプリに審査機能が付いていますので、大まかな審査可否をアプリ上で行い、アプリを通じてオペレーターに相談となります。繰り返しになりますが、オペレーターは相談者の職業や勤務地、年収なども把握した状態で申請が開始となります。 - 保険商品関連サービス
保険商品については、住宅保険、生命保険、旅行保険、*携行品損害保険(mobile and gadget insurance)などがあります。これらは、基本的にアプリからそのまま申請が可能で、支払いも口座から直接となります。
*携行品損害保険(mobile and gadget insurance)についてですが、携帯電話やパソコンなどの私物が破損してしまった際に補償されるというものです。Barclaysの場合には、月額£14.50で一商品当たり最高£1,500まで補償されます。 *2020年5月現在 - クレジットカード関連
クレジットカードの審査について。海外では、クレジットカードの審査が大変厳しく、簡単にクレジットカードを作ることができません。特に欧州諸国では外国人(イギリス人を含むヨーロッパ国民以外を指します。選挙権がない人は外国人とされます。) に対して審査が厳しくなっています。しかし、ローンなどを組む際など確実にクレジットポイントが必要となります。Barclaysアプリからは、口座保持者のクレジット審査を行うことができ、さらに適したクレジットカードを紹介してくれます。 - その他
個人的に便利な機能だと思ったのは、家計簿機能です。このアプリには、銀行口座からの支出を細かく項目分けしてくれる機能が付いています。自分で店などを登録することなく、店名から内容を自動で振り分けてくれる優れものです。
4.【おまけ】イギリス在住を考えている方へ
海外送金について
海外に住んでいると、海外送金をする機会が少なからずあると思います。Barclaysの場合、アプリからの海外送金が可能なのですが、残念ながら日本への送金は不可となります。
その代わり、インターネットバンキングを利用した送金は可能となりますので、パソコンを使用して手続きをしましょう。*海外送金手数料が掛かります。
銀行口座の解約/維持について
帰国の際に銀行口座の解約をする人は、アプリのContact Usからオペレーターへ連絡をします。通常、どこの銀行も解約手数料が掛かることはありません。
口座のお金を事前に日本へ送金。または全額引き出した上で口座を閉じるのが一般的です。支払い期日などの関係でどうしても帰国後に口座を閉じたいという人はその旨をオペレーターに相談しましょう。
トラブルを避けるためにはあまりお勧めはしませんが、口座の残高がゼロにさえなっていれば、日本から電話などで解約することもできるようです。
イギリス銀行口座を維持したいという人もいるでしょう。イギリスのほとんどの銀行は非居住者であっても銀行口座を維持することはできます。しかし、口座を維持する必要があるということを説明する必要があります。
また、海外在住者が維持できる口座は当座預金口座(Current Account)のみとなりますので、普通預金/定期預金口座(Saving Account)は保持できません。イギリスには、The Dormant Accounts Scheme(休眠口座制度)というものがあります。
15年以上口座にアクセスがない場合には、銀行側は口座保持者に連絡を取り、連絡が取れなかった場合には口座が凍結されてしまい、その口座残金はBig Lottery Fundという政府機関の宝くじ基金に寄付されます。
政府発表のガイドラインには15年とありますが、銀行によってはそれよりも短いスパンで口座凍結措置をとるところもあるようです。
こちらについては、詳しい情報は公表されていません。海外からイギリスの銀行口座を維持する場合には、維持することに余程のメリットがある場合だけにした方がよさそうですね。
5.まとめ
今回紹介したBarclaysは1690年創業の老舗銀行であるのも関わらず、先進的なシステムの導入がなされています。
さらに調べてみると、こちらの銀行は他の銀行に比べていち早くシステムを機械化するという取り組みをしていることがわかりました。
具体的には、ATMを普及させ、インターネットバンキングをいち早く導入。さらに、今となってはイギリスで主流のコンタクトレスのデビッドカードの導入もこちらの銀行が始めたものだそうです。(£20以下の買い物であれば、暗証番号やサインなど必要とせずにタップするだけで買い物ができるというもの。現在は£30が一般的です。)
日本でも銀行アプリは普及し始めています。しかしながら、写真登録時の認証反応の悪さ。本人確認が車の免許証のみ。など問題点も多く見受けられているようです。
日本は、銀行のみならず役所での登録作業など多くの場面でいまだに紙をベースにしたアナログな作業が多いです。イギリスにおいてもデジタル先進国とはまだまだ言えませんが、多くの場面でデジタル化が進んでいることを日々実感します。
イギリスで銀行口座を開設するのは容易な作業ではありませんが、携帯アプリを利用して口座を開設するというのは何とも斬新な経験でした。
また、日々の生活の中でこのアプリを実際に使用してみて、安全面・効率化において優れていると感じます。利用者を必要なサービスへうまく誘導してくれるような作り方をしているので、年齢や性別問わずに大変使い勝手よいです。今後もさらなる進化が期待できそうです。