衝撃のお値段!オーストラリアの救急車事情

「タクシー代わりに利用。」
「蚊に刺されたから。」
「日焼けが痛くて耐えられなかったから。」

これらは日本でニュースになった救急車の悪質利用の事例です。日本では誰でも無料で救急車を呼ぶことができますが、それが当たり前だなんて思っていませんか?世界に目を広げてみると、多くの国では救急車は有料です。

私の暮らしていたオーストラリアでも救急車を利用する際にはお金が掛かりました。

そのため、「救急車をむやみやたらに呼んではいけない。本人に必ず確認を取ってからでないとトラブルになるよ。」とよく現地のオーストラリア人に言われたものでした。

そうは言っても意識不明の人にはどのように確認しろというのかと突っ込みどころ満載でした。そんなことを思っていたある日、私の目の前に男性が倒れていたのです…。

まずい、救急車を呼ぶべき?今回は私の実体験も踏まえて、オーストラリアの救急車事情をレポートしていきます。

1.オーストラリアの救急車事情

オーストラリアでは、緊急時に‘000(トリプルゼロ)’に電話をします。これは総合的な緊急電話番号とされており、オーストラリア全体で統一の番号となっています。まず、こちらの番号に電話を掛けるとオペレーターに繋がります。

「What service?」(ご用件は?) と聞かれますので、「ambulance(救急車)」、「fire(消防車)」、「police(警察)」の3つから必要なサービスを伝えます。

すると、それぞれの課に電話を繋いでくれるので、具体的な状況を説明していくという流れです。

オーストラリアには、この‘000’の他にsecond emergency number(二次的な緊急電話番号)というものも設けており、まず‘106’これはTTY(テレプライターまたはテキストメッセージサービス)と呼ばれ、主に言語障害や聴覚障碍者のための緊急電話番号となっています。

次に‘112’こちらは国際標準緊急電話番号とされており、GSM network(携帯電話機などの通信方式)の通じるところからであれば、電話を掛けることができます。

または圏外で電話が通じない場合にはこちらから電話するのがいいでしょう。

2.オーストラリアの救急車お値段

では早速、救急車の気になるお値段のお話です。オーストラリアでは州ごとの決まりが強く、金額もルールも州によって大きく異なるのが特徴です。下記に一般的な救急車利用金額をまとめました。

州 (州都)*料金追加情報
ニューサウスウェールズ州 (シドニー)$392~$3.54/kmが加算されていきます。また、上限額は$6,424です。
オーストラリア首都特別区(キャンベラ)$982ACTから出る場合には、$13/kmで料金が加算されます。
ビクトリア州(メルボルン)$1,265距離に関わらず、一律の金額になっています。また、地方からの呼び出しには$1,866が掛かります。
南オーストラリア州(アデレード)$1,025~$5.90/kmが加算されていきます。
タスマニア州 (ホバート)*無料
クイーンズランド州(ブリスベン)*無料
西オーストラリア州(パース)$986
ノーザンテリトリー州(アリススプリングス)$79010kmまで料金は一律、それ以降は$5.10/kmが加算されていきます。
上記の料金は、2020年5月現在のものです。7月より、さらに値上がりするそうです。
*料金には、治療と搬送の基本料金が含まれています。
*タスマニアとクイーンズランドは無料となっていますが、これはあくまでも在住者が対象となります。旅行者は、自身で加入している旅行保険などを利用する必要があります。

このようにオーストラリアでは救急車の料金は州ごとにバラバラであるというのがお分かりいただけたと思います。無料~$1,265というこの幅はすごいですよね。

また、救急車以外にも救急ヘリやセスナの金額も設定されているというのが広大なオーストラリアならではだなと思いました。ちなみにヘリコプター利用は、AUS/$3,033ですので日本円に換算すると21万円強といったところです…。

3.救急車会員制度(Ambulance membership system)

オーストラリアでは、救急車利用時の高額請求に備えた救急車会員(Ambulance membership)というものがあります。

もちろん、救急車は頻繁に乗るものではありませんが、特に高齢者が家族にいる場合や持病持ちの家族がいる場合などは万が一必に備えてこのシステムを利用する人も多いようです。

州政府も積極的にこの会員制度の利用を推奨しています。私の友人も特に家族で暮らしている人は加入している人が多かったように思います。

ここでは、一番料金の高いビクトリア州の料金プランをご紹介します。

家族プランシングルプラン
3ヶ月料金$24.18$12.09
1年間料金$96.70$48.35
3年間料金$290.10$145.05
5年間料金$483.50$241.75
上記の料金は、2020年5月現在のものです。
*家族プランの場合、世帯主と同居の子供は25歳まで家族に含むことができます。

4.【実体験レポート】ピンチ!意識不明の男性を前にした私が取った行動とは?

私が5年近く暮らしたメルボルンという街は、「世界一住みやすい街」とも呼ばれており、2017年まで7年連続で世界No.1に選ばれておりました。

海外に住むと治安が気になるところですが、この街で暮らしていた間に危険を感じたことは一度もないような気がします。そんな私は、ある日仕事に行こうと駐車場に向かっていました。

すると、なんやら大きな塊のようなものが私の車の前に落ちているように見えました。何だろう…。段々と近づくと嫌な予感が…。そこにはなんと男性が倒れていたのです。

人間の心理とはなんとも不思議なもので、倒れている男性を目の前にするとまず近づくのが恐いものなのです。まず私はその男性に呼び掛けてみました。「大丈夫ですか~?」(もちろん英語です。) しかし全く反応がありません。

そこで私は男性に近づき、呼吸と心拍を確認しました。呼吸はかすかにしており、心臓も動いています。男性はランニング中だったのでしょうか。トレーニングウェアのような格好で、口からは少し泡を吹いていました。

そして少し白目をむいているように見えます。私も一旦深呼吸して、これは、救急車を呼ぶしかない!と000にダイヤルしました。すぐにオペレーターに繋がり、私は男性の状況をできるだけ詳しく伝えました。

電話は切らずにそのままで、ということでオペレーターに電話を繋いだ状態で脈の計測や男性の体勢についてなどの細かな指示をもらいました。すると、近くを通りかかった中年の女性が私に気づいて駆け寄ってきてくれました。

「どうしたの!?何があったの?あなたは何か危険な目にあっていないかしら?誰か呼んできましょう。」と通りがかった何人かの女性が私を助けてくれました。

この時、皆なんて優しいのだろうとまた一層メルボルンが好きになるのでした。

そんな中で、一人の女性が「近くに警察がいたから呼んでくるわ。」と警察を呼んでくれました。(*男性が意識不明だったこともあり、周りの方の親切心で警察を呼んでくれましたが、緊急時に警察を呼ばなくてはいけないということではありません。)

警察に事情を説明し、オペレーターとの電話を警察の方に代わってもらいました。その間に男性は意識が戻ったようで、一安心です。

そんな中、私の中では「救急車を呼んだことがトラブルになったらどうしよう。」という思いがかすかによぎるのでした。少し経つと救急車が到着し、男性は念のためということで搬送されていきました。

私の抱いていた不安をよそに、助けてくれた女性たち、そして警察の方に労いの言葉をかけてもらい一安心したのでした。オーストラリア在住中に自ら救急車を呼ぶなんて思いもよらなかったですが、今思えば貴重な体験だったなと思います。

男性の体調が回復することを願いながら、どうか救急車保険に入っていますようにと祈る私なのでした。

5.【救急車の手引き】どんな時に救急車を呼べばいいの?

私の実体験をご紹介させていただきましたが、実際に皆さんが同じ状況下に置かれたらどのような行動をとっていたでしょうか?救急車を利用する際、または呼ぶ際にはどんなことに気を付けておけばいいのかご紹介していきたいと思います。

5-1. ‘000’へのダイヤル

1.でご紹介したように‘000’は総合緊急電話番号となっています。実際に電話をする際は、以下の3点を確認してから電話を掛けるようにしましょう。

その1.誰かが重症の怪我を負っている、または早急に緊急医療支援を必要とする場合。
その2.あなたの命や所有物が危機的/致命的、または危険な状況下にある場合。
その3.あなたが重大な事故/事件を目撃した場合

これらが‘000’ダイヤル時のガイドラインとなります。つまり、圧倒的に危機的状況下ということですね。

5-2.救急車を呼ぶ際のガイドライン

救急車利用の際の基準を見てみると、「救急車を利用する際は、緊急時のみ」とはっきり書かれています。

そして‘000’から救急車を呼ぶ多くの人が、担架のついた救急車や救命救急士を必要としないことが多く、このことにより救える他の命を犠牲にすることに繋がっているのだそうです。

では、救急車を呼ぶべき状況とはどんなものが挙げられるのでしょうか。

  • 胸痛、または極度の圧迫感を訴えている場合
  • 手足や顔などのしびれや麻痺、突然の脱力感がある場合
  • 呼吸困難の場合
  • 意識不明の場合
  • 制御不能な出血がある場合
  • 突然倒れる、起き上がれなくなるなどの原因不明の症状を伴う場合
  • 原因不明の痙攣を引き起こしている場合(大人)
  • 重大な事故による怪我を伴う場合/骨折などを含む
  • 高いところから落下した場合
  • 重度な暴行を受けた場合、または刺されたり銃で撃たれたりした場合
  • 特に子供が重度の火傷を負った場合
  • 乳幼児が痙攣を引き起こしている、または高熱が続いている場合

これらが救急車を呼ぶべき状況です。かなり具体的な症状に触れていますね。いかがでしたか?皆さんの感覚と合っていましたか?オーストラリアに行く予定のある方は、知っておくとためになるガイドラインではないかと思います。

5-3.救急車を呼ぶ際に必要な情報

ここで救急車を呼ぶ際に必要な情報をまとめておきたいと思います。‘000’にダイヤルすると、「ambulance(救急車)」、「fire(消防車)」、「police(警察)」のいずれかから必要なサービスを伝えるとお伝えしました。

この際に、自分がどこから電話を掛けているのか正確な住所を伝えるようにしましょう。具体的な住所が分からない場合には、近くにわかりやすい目印がないか、一番近い高速道路の降り口などがあればその情報も伝えましょう。

そして、自分の携帯電話番号も伝えます。(万が一電話が切れてしまった場合にオペレーターから折り返せるように。)

救急車を呼ぶ場合に、伝えるべき情報は以下の通りです。

  • 怪我人、病人の症状
  • (怪我人、病人の)年齢
  • 呼吸はしているか
  • 意識はあるか

もちろんこのような状況下では、電話を掛ける本人も動揺するとは思いますが、冷静且つ的確に情報を伝えるように心がけましょう。そして大切なことは、電話している本人の安全も守るようにということです。

自分が危険な場所にいる場合には、必ず安全な場所に移動してから電話をするようにしましょう。

ペットがいる場合には、しっかりロックをしてから救急車へ乗り込むようにというアドバイスも書かれていました。これはオーストラリアらしいものですね。

オーストラリアでは、救急車を必要とするまでではないが、医師などのアドバイスを必要とする人のために‘healthdirect’というホットラインを設けています。

年中無休で電話が通じるようになっているので、まずはこちらにアドバイスを求めるという方法もあります。オーストラリアで病院にかかる場合には必ず自分のかかりつけの医師(GP)からの紹介状が必要になります。

そのため、ほとんどのオーストラリア人にはホームドクターやかかりつけ医がいます。自分がオーストラリア在住者で、その家族に何か問題がある場合には彼らに相談するのもいいでしょう。

大切なことは、本当に救急車が必要な状況かということを一度立ち止まってよく考えてからダイヤルするようにということです。怪我人/病人と意思疎通ができる状況であれば、救急車を呼びましょうかと確認を取ることがトラブルを回避する方法だと思います。

6.まとめ

普段から健康に気を付けている人でも、いつなん時に救急車を利用することになるかわかりません。

もしかしたら、私が経験したように誰かのために救急車を呼ぶことになるかもしれないのです。もしも自分が事件や事故を目撃したら、本当に救急車を必要とする状況なのか立ち止まって考えること。

そして、怪我人/病人と意思疎通ができる状況であれば、救急車を呼びましょうかと確認を取ること。海外を訪れる際は、まずその国の緊急電話やその仕組み、利用基準について理解しておく必要があります。

良かれと思って救急車を呼んだのに、それが逆にトラブルを招くことになったら元も子もないですよね。

これからオーストラリアに住む予定のある人は、「救急車会員」の加入について家族で話し合ってみるのもいいかもしれません。

また、旅行で海外に出かける人は必ず旅行保険に加入しましょう。クレジットカードの付帯サービスでも補償額の上限内であれば救急車費用も補償対象に入ることがほとんどです。

トラベルライターとして活躍するなら、こういった海外保険やクレジットカードの付帯サービスに関してもしっかり調べておく必要がありますね。

旅にトラブルはつきものです。最悪の事態を想定しておくことは、旅の準備にとって大切であると言えるでしょう。

【おまけ】オーストラリアCOVID-19関連

現在世界的に深刻な問題となっているCOVID-19についてですが、オーストラリアでは早い段階で国境を閉じたこともあり感染者数の抑え込みに成功していると言えるでしょう。

政府は経済の再開に向けて3つの段階で行動制限を緩和していく方針です。また行動制限の緩和については各州の決定で措置が行われていく見込みです。

ビクトリア州では今週26日からは公園や屋外のスポーツ施設の利用が再開されました。来月1日からはステージ2に移行となり、20人未満の小規模な外食等が可能となります。

COVID-19が疑われる患者については、直接‘000’へダイヤルしないように呼びかけられています。(緊急時を除きます) COVID-19患者のためには24時間利用可能な専用ホットラインが設けられています。

本当に緊急な人が救急車を利用できるようにという策なのですね。

一日も早く、海外旅行が楽しめる日常が戻ってくるといいですね。

皆さんのオーストラリアへの旅が安全で快適なものになりますように。

【参考】
Victoria State Government (https://www.dhhs.vic.gov.au/coronavirus)
メルボルン領事館 (https://www.melbourne.au.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html)
Australia Government (https://www.health.gov.au/)
Healthdirect (https://www.healthdirect.gov.au/)

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